小谷実由さん

PEOPLE & WALLS 01

自分で選ぶから愛着が湧く。
小谷実由が語る、
自分を好きでいられる空間づくり

小谷実由

モデル

心地よい空間を彩る大切な存在である壁と、そこで過ごす人との関係について、クリエイティブな活動に携わる人々との対話を通じて考えていくLIXIL「PEOPLE & WALLS MAGAZINE」。
今回お話を伺ったのは、モデルの小谷実由さん。好きなものに囲まれた空間で過ごすことが、自身の活動において、大切な刺激をもたらしてくれていると言います。古くから残る空間やものの魅力と、現代的な技術の融合について、小谷さんの考えを聞きました。

取材・文:松井友里 撮影:寺内暁 編集:服部桃子(CINRA)

小谷実由 (おたに みゆ)
ファッションモデル。ファッション誌やカタログ・広告を中心に活動する傍ら、執筆業も行う。一方で、さまざまな作家やクリエイターたちとの企画にも取り組む。昭和と純喫茶をこよなく愛している。

「昔の良さを取り入れたアイデアや建造物に、魅力を感じます」

モデルとして活動しながら、執筆業のほかに、アパレルブランドやクリエイターと協力してものづくりを行っている小谷さん。昨年、スカーフプロジェクトの「moderni(モダニ)」を立ち上げた際には、過去に訪れた土地や空間にまつわる記憶をもとにデザインしたといいます。自身の興味関心に紐づく空間は、小谷さんにとってインスピレーションの源とのこと。なかでも小谷さんが大切にしている場所は、喫茶店。なみなみならぬ純喫茶好きとして知られる彼女は、喫茶店という空間の魅力やそこでの過ごし方について、こう話します。

小谷:喫茶店へは、友達とのおしゃべりや、文章や企画を考える際、気分を変えたいときに足を運ぶことが多いです。年月を感じるインテリアを見て、それが新品だった頃について思いを馳せたり、おじいちゃん、おばあちゃんがいらしてると、「若い頃から来ていたのかな」って考えたり。ここで行われたかもしれない誰かのプロポーズや、初デートについて想像することもあります。喫茶店はそんなふうに、想像が湧き上がる空間だなと思います。

同時に、お店の内装も私にひらめきを与えてくれます。特に、壁は空間のなかで大きな面積を占めるものなので、私にとっては結構大事で。ネットでお店の写真を見て「素敵な壁だな」と思ったら、実際に行くことも多いんですよ。

小谷実由さん
小谷実由さん
喫茶店やスカーフなど、昭和の頃を思い起こさせるノスタルジックな雰囲気が好きな小谷さん。特に、大阪万博のパビリオンをはじめ、高度経済成長期にあたる1970年代に作られたものたちが発するエネルギーに心惹かれるのだそう。

小谷:70年代のものからは、作り手の個人的な思いや熱量をすごく感じます。最近は全体的に、みんなが使いやすくて、幅広い層に受け入れられるデザインが多いように感じていて。もちろん、そうしたものも素晴らしいと思います。でも、私がより好きなのは、「どうしてこういうデザインになったんだろう?」と、つい興味をそそられるような個性的なものたち。

ものを作るときって、規模が大きくなればなるほど思い浮かんだものをそのまま実現することは簡単じゃないはずで。だからこそ、『太陽の塔』とかを見ると「こんなに不思議なものを作れたということは、作り手自身にすごく強い思い入れがあったんだろうな」と想像してしまいます。熱量を持った人たちが作ったものには、何十年経っても資料が残っていたり、伝え続けたいと思う人がたくさんいたりするんだろうなって。

小谷さんは平成生まれ。昭和を実際に体験したことがない世代だからこそ、過去を振り返って懐かしむのとは少し異なる感覚を持っているそうです。

小谷:憧れているんだと思います。その時代を過ごした人の話を聞いても、映像を見ても、当時のものに触れても、実際の空気を100パーセント感じることはできないですよね。自分が体験したことのない世界をずっと追いかけているような気持ちです。熱量があって自由度の高いものが、あちこちにあった時代を勝手に想像して「いいなあ」と思っています。

クラシックなものが好きな一方で、小谷さんは2017年にファッションブランド「I am I」とコラボレーションし「純喫茶準備室」というプロジェクトを発足。喫茶店の雰囲気や常連客をイメージしたアパレルアイテムの制作を行うなど、昭和のエッセンスを取り入れながら時代に合わせてアップデートし、新たな価値を生み出しています。日本の蔵に多用されてきた土壁の調湿性に着目して作られたエコカラットと、小谷さんの価値観には、共鳴する部分があるようです。

小谷:最近、京都の「新風館」という商業施設にお仕事で行ったのですが、そこはもともと電話局だったそうで、外観を変えずそのまま利用しているんです。一度取り壊して新しく建造するのではなく、いい部分を活かしつつ新しいものを作り出す手法に、先人へのリスペクトを感じました。エコカラットも、土壁のメリットを最新の技術でアップデートしているんですよね。私はそういうものが、すごく好き。昔のものや知恵を未来に活かすという考え方が広まっていったらいいなと思います。

小谷実由さん

自分で選んだ壁だから、もっと帰りたくなる家になる

普段から喫茶店や街なかの建物に関心を寄せ、気に入った壁のデザインからものづくりのアイデアを得ることもある小谷さんですが、自宅の壁についてはあまり意識したことがなかったそう。ですが取材当日、エコカラットに触れてみて、考え方に少し変化があったようです。

小谷:壁って漠然と、最初から「そこにある」ものだと考えていました。最近、夫の事務所の引っ越しでいろいろな物件を一緒に見ていたんですけど、ほかはいいけど壁が好みじゃないと、なんとなく違うと思ってしまうんです。だから、壁自体を変えてしまおうという発想があれば選択肢が広がりますね。部分的にエコカラットにしたり、部屋ごとに壁を変えたり。自分で選んだ壁には、きっと愛着が湧きそうです。

LIXILショールームにあるシミュレーターでエコカラットを選ぶ小谷さん
LIXILショールームにあるシミュレーターでエコカラットを選ぶ小谷さん。「壁は部屋の大半を占めているので、選ぶものによって室内の雰囲気も変わりますね」
「空間を自分の好きなもので満たすことが大事」と語る小谷さん。最後に、空間に対する考え方を聞いてみました。

小谷:私は家のなかに置くものは絶対に妥協したくなくて。一つひとつ、自分がすごく好きと思えるものだけを置きたいと思っているんです。最近は家で過ごす時間が長かったから、部屋により目がいくようになって。洗面所のキャビネットを買い直して、中身も整頓したりしました。おかげでいまは洗面所がすごく好きな空間です(笑)。

嫌なことがあっても、帰ってくる家が好きなもので溢れていたら気分も変わりますよね。特に壁はつねに視界に入るものだから、自分の好きな雰囲気にすることで、もっと家で過ごしたくなる。それをきっかけに、インテリアもいろいろ工夫したくなるかも。食器を変えたらごはんの味が美味しく感じるように。壁をきっかけに自分自身のいる場所を振り返って、暮らしの質を上げていくのも良いかもしれませんね。

小谷実由さんが選んだ
お気に入りのエコカラット導入事例

ふぐ料理店の導入事例ですね。格子窓との組み合わせが、和風なのにモダンなテイストもあって素敵です。