半田悠人さん

PEOPLE & WALLS 02

見た目も、機能性も。
建築家・半田悠人が考える
「味わい深い空間」の定義

半田悠人

建築家

心地よい空間を彩る大切な存在である壁と、そこで過ごす人との関係について、クリエイティブな活動に携わる人々との対話を通じて考えていく「PEOPLE & WALLS MAGAZINE」。
建築家の半田悠人さんは、「壁」への先入観を打ち破るような視点を持ち、さまざまな魅力的な空間を生み出してきました。以前は「まっすぐに立っている壁が斜めになったら、それは天井になるのでは?」と、天井と壁の境目についての研究をしていたとのこと。その経験を活かし、「東京のビル群の外壁は首都高から見たら大きな壁のように見えなくもないのでは?」と考え、首都高を封鎖するイベントのアイデアを提案したこともあるそうです。壁の魅力にとりつかれた半田さんに、その面白さを語ってもらいました。

取材・文:松井友里 撮影:寺内暁 編集:服部桃子(CINRA)

半田悠人 (はんだ ゆうと)
幼少のころに見た大工さんに憧れ、挫折と紆余曲折を経たのち、建築の道へ進む。総合芸術制作会社デリシャスカンパニー主宰。現在も建築家として数々のプロジェクトを手がける。

「違っていたほうが面白い」。多様な素材が思い出に残る場所をつくる

半田悠人さんは、幼少の頃から建築に関心を持ち、一度は別の道に進みかけたものの、建築家の白井晟一さんの著書に出会ったことをきっかけに、あらためて建築と向き合うようになりました。建築を仕事にするようになってからは、空間、なかでも壁に対する見方に大きな変化があったと言います。

半田:僕は子どもの頃、古いマンションに住んでいて、そこはクロス(壁紙)じゃなくて、昔の家によくある、粒子の入ったペンキを吹きつけた、触るとつぶつぶを感じる壁だったんですよ。でも友達の家はそうじゃなくて。当時の僕はみんなと違っていることに対して「なんでうちは変な壁なんだろう」と少し恐怖感を抱いていたのですが、いま振り返ってみると、あの壁はすごくかっこよかったなと思うんです。

大人になってから、変わった建物をいろいろ見てきて、特殊であることの素敵さを知ったし、壁もそれぞれ違っていたほうが面白いなと思います。建築には「アイストップ(人の注意を向けるように意識的に置かれたもの)」という言葉があって、どこにどうやってアイストップを持ってくるかが、すごく大切なんです。壁がL字型に立っていたらプライベートな空間を演出できるし、パブリックな感じにしたければ壁を一枚だけ立てて、ざっくり区切ったりもできる。それだけで空気が変わりますよね。つまり、壁は空間のなかで一番大事な存在とも言えます。

半田悠人さん
半田悠人さん
「違っていたほうが面白い」というのは、半田さんがものを見るうえで一貫している視点。自身が手がけた空間では、ちょっと珍しい素材を壁に使ったこともあると話します。

半田:新宿御苑にある「Book Tea Bed」というホテルを手がけたときは、コンクリートを打つときに使う「面木(めんぎ)」という三角形の素材を部屋の隅々にまで貼って、ピンク色の波打った壁を作りました。たぶん誰もやったことがないと思います。お客さまがホテルに求めているのは、見慣れた景色ではなく、非日常性や空間としての面白さだと思うんです。

一方で、ユニークであることは大事だけど、奇をてらってはいけないと思っているので、そこはシビアに線引きをしています。例えば壁でいうと、「絵が描かれていたら面白いよね」というのはすごく表面的な話で。照明のあて方一つでも印象は変わりますし、壁自体の凹凸による陰影も大事です。そうした部分にまで工夫を施している建築物を見ると、「こだわっているな」と心惹かれます。

そんな半田さんが建築を学ぶ学生だった頃、初めてパリに行ったときに、壁にまつわるちょっと不思議な体験をしたのだそう。

半田:ジャン・ヌーヴェルという建築家が設計した、カルティエ財団現代美術館の建物をどうしても見たくて。地図を片手に向かったのですが、最初、あるべきはずの場所に美術館を見つけられなくて、迷ってしまったんですよ。なぜかというと、美術館の建物と歩道のあいだに大きなガラスの壁が建てられていて。美術館自体もガラス張りなので、ガラスが反射することで、街路樹と建物が同化して見えるように緻密に計算されていたから、建物の存在に気づけなかったんです。訪れた時間や気候もちょうどよくて、鳥肌が立つくらい美しい壁でした。ジャン・ヌーヴェルは「ガラスの魔術師」などと呼ばれているのですが、「さすが巨匠だ!」とあらためて思いましたね。

カルティエ財団現代美術館
カルティエ財団現代美術館(Rui Ornelas from Lisboa, Portugal - PARIS, CC 表示 2.0, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=76835636による)

日本ならではの湿気問題。文化や国ごとに適した居住空間がある

視線を誘導したり、居心地のよさをもたらしたり。壁が心理面に及ぼす影響は大きいもの。文化や国など、その場所を使う人の属性によっても心地よい壁や空間のあり方は変わってくるのだと半田さんは話します。

半田:芸大(東京藝術大学)を受験する学生に建築について教えていたことがあるんですけど、学生に憧れの空間をイメージして描いてもらうと、だだっ広い空間にソファがちょこんと置かれているような絵を描くことが非常に多い。でも、それが本当にいい空間なのか考えてみると、実際には落ち着かないと思うんです。

特に日本人は、限りあるなかで居住空間を豊かにすることに慣れているので、狭い場所のほうが落ち着くという感覚がどこかにあって。電車で端の席が人気なのって、日本くらいなんですよ。「真ん中のほうが広いからいい」と感じる人が多い国もたくさんある。部屋に対する感覚も、それと似たものがあるはずで。だから学生には、そうしたことも考えたうえで、自分がつくりたい物語に合わせた空間をつくるといいよ、と話していました。

半田さん主宰のデリシャスカンパニーが運営する「元映画館」バーカウンター 「元映画館」のインテリア
半田さん主宰のデリシャスカンパニーが運営する「元映画館」バーカウンター
以前住んでいた自宅の脱衣所に、エコカラットを導入していたという半田さん。エコカラットは、1990年代に日本の住宅の高気密化・高断熱化が進んだことでシックハウス症候群や結露など、住環境にまつわる問題が増えたことで生まれた、調湿機能を備えた壁材。実際に自宅に取り入れてみて、どのようなことを感じたのでしょうか。

半田:エコカラットは、調湿や消臭の効果をすごく実感しました。僕は海辺で育ったので、実家にいる頃はいつも湿気を感じていて。両親ともに田舎育ちで、「窓を開けて風を感じるんだ!」というタイプの人たちだったので、エアコンの導入が遅かったんですけど、僕自身はエアコンの「除湿」モードがめちゃくちゃ好きでした(笑)。それを壁材の性能だけで実現できるのはいいですね。

さらに、建築家としての視点から見たエコカラットの魅力について、こう続けます。

半田:ビルの外壁にはよく石材が使われるのですが、あれはすごく重たいので、建物に負担をかけるんです。地震の多い日本では使うべきじゃないと僕は思っていますし、石だから加工も大変。それでも石の魅力から逃れられなくて、いろんな建築家が使います。

また、石材は内装にも利用されることが多いから、同様の懸念が考えられます。その点、エコカラットは石材と見た目もあんまり変わらないし加工しやすくて軽い。だからこれを使わない手はないですよね。

エコカラットの実物サンプルを見る半田さん エコカラットシミュレーターを操作する半田さん
エコカラットシミュレーターを操作する半田さん。「これを3DCG上でやろうとすると、すごく時間がかかります。その点、手軽にいろいろ試せて、雰囲気もわかるのがいいですね」
何にもとらわれない発想で、壁について考え、空間をつくってきた半田さん。エコカラットを通じて、壁の新たな役割について感じたことがあったようです。

半田:建築は写真に撮ることが難しいと言われています。空間の様子はわかるけれど、そこに流れる心地よさや、温度、湿度は目に見えないものじゃないですか。「空間を味わう」とはつまり、いろんな要素を一緒くたに味わう、ということなんですよね。エコカラットも、「見る」と同時に「感じる」要素があると思うんです。ナチュラルな素材感を得られつつ、住空間の機能性を上げることができる。平面なものでありながら、受け取る情報には奥行きがある壁材は、「味わい深い空間づくり」に最適だと思います。