浅野いにおさん

CREATOR'S WALLS

落ち着いた柄の壁材で、集中できる部屋に。
漫画家・浅野いにおのワークスペース

浅野いにお

漫画家

『デッドデッドデーモンズデデデデデストラクション』(小学館)を連載中の漫画家・浅野いにおさん。コロナ前は仕事場にスタッフが集まり作業をしていましたが、ここ1年半で完全にリモートワークへ移行。部屋に一人でいることが多くなったことから、自分が心地よく過ごせるようレイアウトを変更したそうです。また、壁一面にエコカラットを施工し、仕事部屋全体の雰囲気を刷新しました。部屋を快適につくりかえることで、創作にどんな影響があったのでしょうか? 浅野さんにお話をうかがいました。

取材・文:榎並紀行(やじろべえ) 撮影:豊島望 編集:服部桃子(CINRA)

浅野いにお (あさの いにお)
1980年生まれ、茨城県出身。2001年『宇宙からコンニチワ』で第1回GX新人賞に入賞。主な作品に『素晴らしい世界』『ソラニン』『おやすみプンプン』など。現在「週刊ビッグコミックスピリッツ」で『デッドデッドデーモンズデデデデデストラクション』を連載中。

おもちゃや楽器。仕事部屋を「一人仕様」に変更

1年前にも事務所におうかがいしましたが、その頃とレイアウトがかなり変わりましたね。

浅野:前回来ていただいたときはまだスタッフの出入りもあって、つねに2、3人が一緒にいる前提のレイアウトになっていたと思います。でも、いまはスタッフ全員がリモートワークになったので、自分のスペースを増やして部屋を広く使うことにしました。身の回りに趣味のものをたくさん置いてしまっているし、完全に一人仕様のレイアウトですね。

浅野いにおさん
浅野いにおさん
1人きりで仕事をするのは久しぶりですか?

浅野:はい。新人の頃からしばらくのあいだ、誰もいないワンルームで漫画を描いていたことを思い出します。あのときと違うのは、おもちゃや楽器の数ですかね。特にここ1年半はコロナで外出できないことを言い訳にして、ギターとシンセサイザーを山のように買ってしまいました。スタッフがここに来ていたときはあまりプライベート感が出ないようにセーブしていたんですけど、いまはちょっとタガが外れています。

音楽機材などがぎっしり
音楽機材などがぎっしり
でも、1人なら遠慮なく音も出せるし、仕事の合間のいい気分転換になりそうです。

浅野:そうですね。これまで別室に分けていた趣味のものも、現在はすべて手の届く範囲に置いています。基本的にはずっと机に向かって仕事をしているんですけど、少し椅子の向きを変えればゲームを起動できるし、いつでも楽器を演奏できるし、最小限の動きで何でもできるようになりました。それで仕事が捗るかといったら微妙ですが、以前よりリラックスして過ごせる空間にはなりましたね。

コロナ禍以前は、仕事とプライベートをきっぱり分けるようにしていました。でも世の中の状況が変わり、一人でいる時間が増えたことで、仕事と自分の生活はつながっていることを再確認して。

「限られた人生の時間で何が描けるんだろう」と考えることも増え、結果仕事により一層打ち込むようになりました。そのため、作業スペースを広くしたり、手の届く位置に必要なものを置くようなレイアウトにするようにしたりと、快適な部屋づくりに力を入れています。

リラックスして仕事をするため、会話ベースの動画を流す

レイアウト以外にも、快適に仕事をするために、工夫していることはありますか?

浅野:工夫というほどでもないですが、仕事中や部屋にいるときは、何かしらの「音」を聞くようにしています。最近は音楽よりも会話ベースの情報が流れている状態がいいなと思って、YouTubeの動画をとりあえず流していますね。ぼくは普段スタッフなど限られた人としか会話をしないので、語彙がまったく広がっていかないんです。だから喋り方を忘れないためにも、会話ベースの動画を何となく聞いています。

ちなみに、最近お気に入りの動画があれば教えてください。

浅野:同年代くらいの人が落ち着いたテンションで話す動画をよく見ますね。自分が40代になったこともあってか、肌に合うというか、リラックスできます。よく見ている動画のなかに、普通のサラリーマンっぽい人が淡々と心霊スポットを怖がりながらレポートしているものがあるのですが、ここ1年くらいはそればっかりループしていますね。若者ノリじゃないところが良いなと思います。

仕事のテンションを上げるためというよりは、リラックスするために流しているんですね。

浅野:そうですね。ぼくの場合はリラックスしている状態のほうが、仕事は捗ります。今年の頭に流行った音声SNSのClubhouseも仕事中に聞き流すのにちょうどよかったです。ああいう、つくられてない自然な会話って一番リラックスできる気がしますね。

浅野さんの仕事風景

「情報量」のある壁材を導入し、より集中できる部屋に

今回、仕事部屋の壁にエコカラットを導入されましたが、雰囲気がかなり変わりましたね。

浅野:はい。とても気に入っています。以前の壁紙は派手で個性的だったのでイメージを変えたかったのと、コロナでこの部屋にいる時間が増えたので、少し落ち着いたデザインのものがいいかなと思いました。ぼくの部屋は物が多くてゴチャゴチャしているので、そのほうが空間に緩急がつくんじゃないかと。

エコカラットにする前の部屋
エコカラットにする前の浅野さんの部屋
エコカラット導入後の部屋
エコカラット導入後の部屋
エコカラットの壁に触れる浅野さん
エコカラット導入後の壁の様子
光が当たると陰影ができるのも印象的です。

浅野:そこも、導入前に期待していた部分でした。エコカラットは壁紙ではなく立体的な素材なので、せっかくならと凹凸が感じられるものを選びました。デザイン的にはシンプルなんですけど、おっしゃる通り陰影が多いぶん情報量があって、物足りなさは感じません。陽が傾くと影のかたちも変わるなど、時間帯によって変化があるのもいいですね。

これだけ大きなスペースに張ると、仕事をするときに必ず目に入るんですよね。その際、味気ないものだとイヤだし、奇抜すぎるのも違う。そういう意味では、ちゃんと存在感もありつつ主張しすぎない、しかも脱臭や調湿などの機能性もあるとのことで、とてもバランスがいい壁材だったと思います。

施工風景
導入中の様子
エコカラットをカットする様子
カッティングして細かい部分も張っていく
部屋の雰囲気を変えることで、漫画にもいい影響が出ると思いますか?

浅野:あると思います。特にぼくの描く漫画は生活の延長線上にあるものだから、自分自身がなるべく自然体というか、フラットな状態でいたい。つねにフラットでいたほうが、大胆な作品をつくるときも落ち着いた作品をつくるときも、どっちにも軸足を移しやすいです。

その状態をキープできる空間を求めて、より自然な風合いの素材を選んだところもあります。もし、気分を高めたければもうちょっと派手なデザインのものもあるし、色や素材のバリエーションも豊富なので、自分がどんな気分になりたいかによって選択肢がたくさんあるのもいいですよね。

ちなみに、仕事部屋だけでなく玄関にも同じエコカラットを張りましたよね。

浅野:仕事部屋はこれまでも壁紙を変えたりしてきたんですけど、玄関はほとんど手つかずでした。でも、今回思い切って壁を変えてみたら、家全体の印象も刷新されたような気がします。やっぱり玄関は入口だから、ここで印象が決まる。入った瞬間の匂いといった空気の質の良さや、「この家はこんな雰囲気なんだ」とわかるのはいいですよね。

エコカラット導入前の玄関の壁を見る浅野さん
エコカラット導入前の玄関の様子
エコカラット導入後の玄関の様子
導入後の玄関の様子
最後にあらためておうかがいします。浅野さんにとって心地よい仕事部屋とは、どんなものでしょうか?

浅野:できる限りノイズが排除された空間じゃないでしょうか。ノイズとはつまり、仕事の手中を妨げるものすべて。そういう意味では、部屋に対する不満とか、気になる部分などもノイズだと思うので、多少手間でも自分にとって理想の部屋をつくり上げたほうがいいですよね。

自分の場合、部屋の壁はとても重要な要素です。先ほど音楽やYouTubeをつねに流していると話しましたが、ぼくは何もない空間がすごく苦手で、逆にノイズになってしまうんです。何も模様がない真っ白な壁も同様で、ほどよい情報で埋めておきたい。そういう意味では、いまの部屋はすごくバランスがよくて、集中しやすい空間になっていると思いますね。

浅野さんの仕事部屋/漫画制作作業場

使われているタイル