浅野いにおさん

PEOPLE & WALLS 03

我が家だから、選択肢が必要。
浅野いにおが語る
「素材の質感」へのこだわり

浅野いにお

漫画家

心地よい空間を彩る大切な存在である壁と、そこで過ごす人との関係について、クリエイティブな活動に携わる人々との対話を通じて考えていくLIXIL「PEOPLE & WALLS MAGAZINE」。
漫画家・浅野いにおさんは、『デッドデッドデーモンズデデデデデストラクション(以下、デデデデ)』『おやすみプンプン』『ソラニン』などの作品で知られています。デジタルとアナログを組み合わせた緻密な背景描写を得意とし、登場人物の暮らす街や、部屋の質感には私たちの生活をもリアルに再現しています。一体、それらはどのような手法から生み出されているのでしょうか? 浅野さんの仕事場を訪ね、漫画における「空間の質感」と、暮らす場所へのこだわりについてお話を伺いました。

取材・文:榎並紀行(やじろべえ) 撮影:寺内暁 編集:服部桃子(CINRA)

浅野いにお (あさの いにお)
漫画家。2001年『宇宙からコンニチワ』で第1回GX新人賞に入賞。主な作品に『素晴らしい世界』『ソラニン』『おやすみプンプン』など。現在『週刊ビッグコミックスピリッツ』で『デッドデッドデーモンズデデデデデストラクション』を連載中。
CREATOR’S WALLS
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細部にわたる質感へのこだわりが、作品の空気感をつくる

浅野さんの漫画では、背景がとても緻密に描かれています。そもそも、なぜそのような背景を描くようになったのですか?

浅野:デビュー直後はギャグ漫画家だったので、キャラクターやセリフを重視していて、背景のことはあまり考えていませんでした。でも、「普段の暮らし」を軸に物語を描き始めてからは、キャラがどこで何をしているか、どのような人間なのかを、背景を通して読者に伝えることが重要だと気づき、しっかり描き込むようになりましたね。

浅野いにおさん
浅野いにおさん
登場人物が暮らす部屋は、生活ぶりが想像できるほどリアルです。あの生々しい空気の質感は、どのように生み出しているのでしょうか?

浅野:実際に人が暮らしている空間を写真に撮って、それを参考に描くことが多いです。知人づてに、キャラクターの属性に近い人を紹介してもらい、部屋を見せてもらうこともありますね。例えば「物がごちゃごちゃ置いてある大学生の部屋」を描くにしても、結局、自分が知っていることしか描けないじゃないですか。他人の部屋って、けっこう予想外の物が置いてあるので、実際の写真を描写してその空間の手ざわりを表現することで、物語にリアリティーが生まれます。

『デッドデッドデーモンズ』第1巻より
『デッドデッドデーモンズ』第1巻より
最近は作画の一部に3DCGを取り入れているそうですね。「空気の質感」という面で差が出てくることはありますか?

浅野:そうですね。人が住んでいる部屋って、よく見たらゴミとかいっぱい落ちていたり、コード類が無造作に絡まっていたりするじゃないですか。そういう一見見落としてしまいそうなものが部屋全体の質感を生み出す。全部が3DCGだと異様に綺麗な部屋になってしまうので、僕が描くような漫画は特に、すべてを3DCGに置き換えるのが難しいのかなと思います。

ただ、本質的にこだわりたい部分は変わりません。例えば、家を描く場合。地面のすぐ上に家の壁があるということはほとんどなくて、多くの場合は、土台があり、その上に壁があるという構造になっていますよね。3DCGにしても手描きにしても、現実の建造物や景色がどう成り立っているかを理解してアウトプットする必要がある。「リアリティー」というのは、決して手段で左右されるものではなく、それらを意識しているかどうかで生まれるものだと思います。

作画の様子
手描きでも3DCGでもそのこだわりは変わらないと。

浅野:はい。一方で、3DCGを用いることで大胆な構図が描けるようになりました。『デデデデ』という漫画の9巻は、全編にわたって門出(かどで)というキャラクターの小学生時代の回想シーンが続きます。ここに出てくる門出の部屋は、すべて3DCGをもとに描いているんです。

実際に訪れたり、写真を資料にしたりしても決して知ることができない構図というのはあって。この4コマ目(下記画像)は、現実では天井をぶち抜かない限りわかりませんが、3DCGならソファや机を配置して部屋のイメージをつくれば、どんな角度からも見ることができる。以前は「現実の世界にない構図」を描くことに抵抗がありましたが、最近はそれも漫画的な表現としてありかなと考えられるようになりました。

『デッドデッドデーモンズ』第9巻より
『デッドデッドデーモンズ』第9巻より

「壁自体を変える」という発想で、家づくりの幅を広げる

漫画では「雑然とした部屋」を描かれることが多い印象ですが、浅野さんはどんな部屋がお好きですか?

浅野:僕自身も雑多なというか、物が多い空間が好きですね。

この仕事場も、フィギュアやギター、音楽系の機材、雑貨まで、さまざまな物が置かれていますね。

浅野:いまは全部デジタルで漫画を描いているので、仕事道具はパソコンと液晶タブレットだけ。あとは、すべて仕事に関係ない物です。ほとんど使ってませんけどね。こういう、雑貨やおもちゃに囲まれているような部屋って居心地がよくて。

壁も柄物が好きですね。白い壁は、部屋にがらんとスキマが空いているみたいで落ち着かないんです。賃貸物件に住んでいたときは壁紙を勝手に変えられないのがストレスでしたが、いまは仕事場も自宅も購入したものなので、好き勝手にいじってます。

浅野さんの仕事場 浅野さんと愛猫
たしかに、印象的なデザインの壁紙ですよね。浅野さんが暮らしている手ざわりや質感を感じるというか。

浅野:特にこだわって選んだわけじゃないんですけど、真っ白なクロスのままにしておくのは嫌だったんですよ。「最初からそうだった」というだけの理由でそのままにしておくことに、何となく違和感があって。それに、壁って必ず視界に入るものだから、何もないと物足りなさを感じるんです。ただ、何かで埋めようにもポスターとかだと主張が強すぎるというか、それを選んだ意味みたいなものが出てしまう。結果、派手な壁紙とかになってしまうんですよね。

ちなみに、ご自宅の壁もやはり派手なんですか?

浅野:派手ですね。玄関からしてピンクですし。自分の部屋はさらにド派手で、壁の色は赤です。赤地に動物の絵がいっぱい描かれたクロス。天井には黒い珪藻土を塗っています。

浅野さん宅のご自身の部屋
浅野さんのご自宅
かなり大胆な配色ですね。

浅野:無茶苦茶ですよね。でも、どうせ寝るためだけの部屋だから、見たこともないような色にしちゃえと思って。黒い天井なんて、圧迫感が出るから絶対にやったらだめなんですけどね(笑)。まあ、快適かどうかはさておき、満足はしています。おそらく僕は、何かしら「自分の意思で選んだ」っていう形跡が欲しいんだと思います。そのほうが、自分の部屋らしい質感が出て、「僕だけの居場所」という感じがするので。

エコカラットの大きな特徴として、脱臭効果や調湿機能があります。こうした機能も空間の質感を底上げする要素の一つと考えられますが、浅野さんは機能面でのこだわりはありますか?

浅野さん:自宅の壁は、珪藻土の塗り壁にしています。中古住宅をリフォームしたんですけど、もともとあった岩壁みたいな面だけ残して、あとはすべて珪藻土。ただ、それは妻の意向で。僕は正直、さほどこだわりはありませんでした。タバコを吸うので、脱臭効果があるといいなとは思っていましたが、壁で効果が出るとは思えなくて、空気清浄機に頼りきり。室内の雰囲気にも影響はないと思っていました。

でもエコカラットは、珪藻土より調湿や脱臭が期待できるんですよね? 空気がきれいになると、部屋の雰囲気もよくなるから、たしかに空間の質感に関係してくるかもしれませんね。これまでは「壁を変える=壁紙を変える」という認識だったけれど、これだけの機能性を備えているなら、壁自体を変えるという選択肢もあったなと思いました。シミュレーターも触らせてもらいましたが、壁一面じゃなくて一部だけ導入できるとか、自由度があっていい。自分の家だからこそ、いろいろ好きに選びたいですよね。そうすると、空間の満足度も上がるように思います。

エコカラットのサンプルを触る浅野さん
エコカラットのサンプルを触る浅野さん。「主張も強すぎないし、デザイン性もある。さらに機能性が備わっているのもいいですね」